真に必要な機能追加は何なのか?

Opera ユーザーは - Mozilla Firefox Thunderbird の拡張あれこれ-MEMO過去ログ(2006年9月)を読んでいて思ったこと。


Firefox は当初の理念に戻って、安全性と、スピードと、安定性、標準サポートとメモリー問題のみを強力に押し進めて、その他は全部ユーザー個人個人が好みに応じて拡張でどんなことことでも出来るのだ、その多様性とカスタマイズ性を全面に押し出して本体の機能でないものは機能に数えられないという風潮を覆すようにしていくべきだと思います.何だか腰が定まっていず小出しに既に拡張で実現されている機能を本体に移していくという行き方はもう止めた方がよいと思います.

という意見はある意味正しいが、ある意味では視点が不足している。基準は何処に置くべきか、というのはターゲットとなるユーザー層によって変わってくるが、それが何時の時点でのユーザーなのか、ということでも基準は変わってくるからだ。

キャズムを越える前のユーザーとキャズムを越えた後のユーザーとでは求められるものは違ってくる。ギークや技術的思考の強いユーザーはシンプルなものに自分が好みの機能を付け加える手法を求める。対して、キャズムを越えた後の場所に現れる初心者ユーザーは必ずしもそうではない。最初から「最低限のもの」が全て揃っていることを求める。この「最低限」の基準がキャズム前と後とで違ってくるから厄介なのだ。

以前、Mozilla L10N のフォーラムでAMOによる拡張機能パックについて述べた事があるが、その時はタブブラウジングの機能が理解されない事について「タブブラウジングの機能自体に気が付いていない人はそもそもカスタマイズの概念すら理解していない例もあります」と述べた。そういう人には拡張機能テンコ盛は意味がない、ということなのだが、同時に彼らは最低限ものが揃っていないと使ってくれない、という相反する性質を備えている。ギークのように「何でも自分でそろえる、無ければ作る」という人たちとは全く別の視点で道具を使う人たちなのだ。

Firefox拡張機能を使えば自分好みの環境を仕立て上げる事が出来るが、これはギークの好みに合っているといってよいだろう。では最低限揃っていなければ使ってくれない人の好みには合っているだろうか?

キャズムを越える前の初心者はその周りに少なからずギークや技術的趣向の強い人がいる。そもそもキャズム前にFirefoxを使い始めた初心者は周りの技術に強い人から薦められることで使い始めるので、当然周りにはアドバイスのできる人がいる。従って、多少機能が揃っていなくても、何が足りないといえば周りからのフォローが入る。

それに対して、キャズムを越えた後の初心者は周りが使い始めたから自分も使い始めるというパターンが多いので、必ずしも周りに適切にアドバイスできる人がいるとは限らない。従って、最低限必要なものが揃っていないと自分で何らかの機能を追加することも無く、使いつづけてもらえないことになる。

この違いはキャズムにおけるフォロワーの性質を考えればある程度納得がいくだろう。

ではMozilla L10N のフォーラムで拡張機能パックを否定した理由とは何なのか、という疑問が湧いてくるはずだ。あの時点でFirefoxキャズムを越えていれば、当然最低限の機能をそろえることは必要になっていた。例えキャズムを越えていなくても来るべき時に備えてパックを作成しておくべきだ、という意見もあるだろう。

その意味ではパックを否定する事自体がおかしいということになるが、ここで日本市場の特性とパックの特性を考慮する必要が出てくる。

日本市場でのFirefoxの普及が他国よりも遅れていることは周知の事実だが、同時にこの遅れが拡張機能パックの危険性を増大させる。先に拡張機能パックで取り込まれた機能がFirefox本体では採用を見送られた、という場合にユーザーから見て不整合が起きやすい。パックに入っていたものが新しいバージョンの本体には取り込まれなかった、というのは印象として少なからず悪影響をもたらすし、新バージョンに対する拡張パック側の対応が遅れた場合には更に混乱をもたらす事になる。

パックそのものの開発体制が本体並に維持できるとは限らない以上、パックを用意するということは相当のリスクを背負う事になる。これはキャズムを越えていようがいまいが、負うべきではない。

というわけで拡張パックは止めて正解だったと思っているわけだが、「最低限揃った」は拡張パックで実現できない以上、本体側で実現すべきということになる。

そして、その本体側で実現すべき「最低限揃った」はキャズム後にこそ必要になるという事は頭に入れておくべき事柄ではないだろうか?

「最低限」の基準がキャズム前と後とで違ってくると述べたが、これは同時に「必要以上のものは絶対に増やさない」という基準の上限が変わってくる、ということでもある。

基準の上限は対抗する対象の状況によっても違ってくる。Firefoxの対抗対象はIE7だが、この点についてはまた後で述べる。

参考:Mozilla L10N :: トピックを表示 - [ご意見募集] 拡張機能プレインストール版Googleのキャッシュ)